パネルディスカッション「これから求められる品質経営とは」
司会:長田洋氏
文京大学 教授、東京工業大学 名誉教授
70年代以降の環境変化。
スマイルカーブと呼ばれる現象が起き、
製造に強みを持つ我が国に変化が求められている。
品質経営のパラダイムは、
かつての製造品質重視の考え方から、
総合的な経営の質を重視する第三世代を迎えた。
品質経営とは、
顧客の満足する品質を備えた品物やサービスを適時に適切な価格で提供できるように、全組織を効果的・効率的に運営し、組織目的の達成に貢献する体系的活動と定義される。
それは、
顧客、従業員、地域、取引先、株主との良好な関係を向上させるべく、
高い組織能力に裏打ちされた顧客満足の高い製品・サービスを提供することに他ならない。
これからの時代に求められる品質経営の像は何か。
そして、その推進と確立のための方策は何か。
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藤岡高広氏
愛知製鋼株式会社 代表取締役社長
〔企画・設計→生産→販売→調査・サービス〕という品質に焦点を当てたデミング・サークルは企業の持続的な進歩を支え、「お客様第一、全員参加、絶え間ない改善」を重視するTQM基本的な考え方は組織の長期的な成功をもたらす。TQMは経営のツールといえる。企業がやるべきことは、組織構成員一人ひとりの高い品質意識に基づき、「①お客様の期待に応える新たな価値の創造」と「②ばらつき・変化への的確な対応(品質保証)」による、質創造である。
ただし、かつての時代とは異なり、企業を取り巻く環境は大きく変化している。パラダイムチェンジへの対応が企業存続の鍵である。中国やアセアン諸国の台頭によるコスト競争は激しさを増しており、価格競争に陥った場合は日本企業が勝ち残ることは困難である。
今日の商品価値は、機能的価値以上に意味的価値ウエイトが大きくなっており、製品・サービスが顧客にもたらす「コト」を考えることの重要性が増している。コンセプトを持った価値作りを目指すことが肝要だ。
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岩崎日出男氏
近畿大学 名誉教授
前出のとおり、品質経営とは、
顧客の満足する品質を備えた品物やサービスを適時に適切な価格で提供できるように、全組織を効果的・効率的に運営し、組織目的の達成に貢献する体系的活動と定義される。ここでいう品質は、有用性や信頼性・安全性などを指すが、品質という概念を論じる際は社会・環境・次世代への影響を考慮する必要がある。
JIS Q 9005「質マネジメントシステム」において、顧客価値創造とは顧客が何らかの価値を感じて満足する状態を新たに作り出すことを言う。組織は、顧客価値を創造できるシステムを構築し、維持する必要がある。
しかし、
今日の顧客はたいがいのことでは驚かず、満足しない。
その製品やサービスから得られる特別な満足感、つまり、喜び感動を与える価値を考えていかなければならない。
→ 魅力個性的なアウトスタンディングな「顧客が実現したいコト」をコンセプトとして掲げ、そのようなコトを実現するための道具としての製品・サービスを創造できる仕組みの構築が欠かせない。
今日、ITの活用は、これまでの「業務効率化」の視点から脱皮し、
デマンドチェーンの構築狙いにすべきである。
デマンドチェーンとは、真に顧客が要求する商品を開発し、提供する価値連鎖の仕組み。
これからの時代のTQMが検討すべきこととして、
1) 真のマザー工場におけるTQMの役割
2) 経済のグローバル化が進み、金融市場の中心がシンガポールや香港に移動していることから、M&A推進におけるTQMの役割
などが挙げられる。
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田中千秋氏
東レバッテリーセパレータフィルム株式会社 相談役
OECD諸国の一人あたりGDP推移に見る日本の低下傾向や、IMD国際競争力ランキングにおける順位低下などから分かるとおり、日本のモノづくり力の国際的地位は低下している。
今、世界は歴史的な転換点を迎えており、オープン環境の国際分業が加速すると我が国は例外なく市場撤退への道を歩む。いまこそ危機をチャンスにして生きる道を明確にする必要がある。
我が国におけるこれまでのモノづくりは、「製品設計」、「製法設計」、「材料設計」が個々に独立しており、これが過当競争を引き起こした。その背景には、自前主義や横並び意識が挙げられる。垂直一体型、オープンイノベーション連携をキーワードとする創造的な真のモノづくりを志向すべきである。前述の「製品設計」、「製法設計」、「材料設計」というモノづくり3要素は、個々の企業が拠って立つ強い独自技術をもとに、業種間連携と融合を図るべきである。これが真のモノづくりといえよう。サプライチェーンの中で、最終製品の企画設計段階から顧客と連携してソリューションを創出するという視点が重要である。
米国やドイツ、中国の政策を見ると、国の成長と競争力の原動力は依然として製造業が担っている。現状の「品質」および「品質管理」の問題点として、品質を品質保証部や製造現場だけの問題にしていることが挙げられる。最終製品の使われ方や顧客の工程を知り、全部署参加のモノづくりと品質保証体制を構築する必要がある。モノづくりでの敗北は国家の衰退に繋がる。我が国は第4次産業革命で製造業の再強化が急務なのである。
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飯塚悦功氏
東京大学 名誉教授
我が国は1980年代初めに「品質立国、日本」を確立し、経済的大成功を収めた。当時は、時代が品質を求めており、品質は最大の競争優位要因だった。顧客ニーズにこたえる製品を設計し、設計通りの製品を実現する能力によって、高品質で安価な工業製品を生み出すことがなによりの勝因だった。
しかし、時代は変わった。社会の成熟化や、製造業におけるアジアの台頭などによって、事業の競争力を左右する能力・側面が変化した。時代の変化の様相を捉え、その上で、自らの強み弱み、特徴を知る必要がある。変化した暁に実現すべき「あるべき姿」を自覚し、自己変革することが変化の時代を生き抜くカギとなる。これまでのビジネスモデルが今後も通用するとは限らない。新たな経営スタイルの確立が必要。品質マネジメントを「顧客価値提供マネジメント」として捉え直し、顧客価値提供に焦点を当てた持続的成功を志向することが有益な視点となる。
顧客価値提供における重要概念
1) 顧客価値
組織設立の目的は、製品・サービスを通した価値提供。製品は価値提供の手段・媒体に過ぎない。「品質」とは、提供価値に対する顧客の評価を考えるべき。
2) 能力・特徴
能力とは、価値提供を具現化する力のこと。競争優位になりうるもの。競争優位のために組織が持つべき能力および特徴の全体像を「組織能力像」として顕在的に組織全体で共有することが求められる。
3) 事業シナリオとシステム化
「どんな顧客に、どんな顧客価値を、どんな能力・特徴を武器に提供するか」を表したもの。必要な組織能力はQMSとして実装および日常化されることが重要になる。また、時代とともに競争優位要因は変化するため、変化の様相を捉えて組織がもつべき能力の特定に常に意識的であるべき。継続的な自己変革が欠かせない。変化への対応能力をシステム化することが求められる。
事業とは「持続的顧客価値提供」のこと。①実現すべき顧客価値の設定、②顧客価値を提供する競争優位となる能力の確立、③競争優位を実現するシステム化に加え、④時代の変化を捉えてこれらを繰り返し刷新していくことが、持続的成功をもたらす。