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Channel: ひょんなことから国立大学助教授になった加藤雄一郎の奮闘記
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「長すぎるから半分にしろ」と言われるでしょうけど。

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まえがき

「切腹覚悟で申し上げます」 ・・・ TQM界の大御所たちを目の前に、TQMに対して問題提起するというとんでもない講演に臨んだのは2006年12月2日。当日の講演は、この一言だけを毛書体を縦書きで記したシートから入りました。第83回品質管理シンポジウム最終日の出来事です。

講演内容の趣旨は、『TQMは、「達成すべき事」を決めた後のハウツーは充実しているが、「そもそも達成すべきは何か」を検討するための方法論は弱い。つまり、“how to do”に関する方法論ばかりで、“what to do”を支援する方法論は乏しい。TQMとブランドマネジメントは相互補完関係。TQMは、“what to do”に強いブランドマネジメントの考え方を導入すべきだ。私は両者を融合させてみたい』というものです。

「もし、質疑が紛糾したらどうか仲裁に入ってください」と講演直前に事務局にお願いしたくらい、若輩者の生意気な提言が直後の質疑で大荒れを招くのではないかとハラハラしていたのですが、実際はまったく逆でした。「がんばってみなさい」「楽しみにしている」・・・ 何人もの権威ある先生方からこのような有り難いお言葉をいただきました。それらのお言葉が、“what to do”に重きを置いた「理想追求型QCストーリー」の誕生を導いたといっても過言ではないと思っています。

しかし、その道のりは険しいものでした。その後、10社以上の企業と個別に協働ワークしましたが、what to doの手続きをどうしても一意に定めることができなかったのです。十人十色ならぬ、十社十色です。風土や価値観は企業によって固有です。思考の手続きはこれら企業の固有性の影響を受ける為、「一般化」ができないまま数年の月日が流れてしまいました。

流れが変わったのは、2011年の「味穂会談」。大阪・心斎橋の「味穂」という居酒屋で、当時加藤研究室の学部4年生だった松村喜弘君とおでんをつつきながら話し合った時が転換点です。あの日は、広島で行われたマツダとのワークセッションの帰りでした。そのまま名古屋に帰るのはもったいないということになり、大阪で途中下車して京セラドームに野球観戦した後に立ち寄った店です。「なぁ、松村。いまマツダでやっている取組みは絶対に方法論として形になると思う。名称は既に考えていて、理想追求型QCストーリーにしたいと思っている。俺はどうしても理想追求型QCストーリーを産業界に提案したいんだ。一緒にやらないか?」・・・ 松村君は二つ返事でした。「是非やりましょう」と。私たちの中では、あの日のことを「味穂会談」と呼んでいます。

当時、中味はまだ作り込まれていないのに、手法の名称だけは「理想追求型QCストーリー」に決めていました。
前述のとおり、本書が提案する手法はTQM界の先生方からいただいた有り難い言葉がきっかけです。筆者としてはその感謝の気持ちを込めて、手法名称にTQMで用いられる語をどうしても用いたいという思いがありました。数あるTQMの方法論のなかでも、特に筆者はQCストーリーという思考の手続きを示した手法が大好きだったことから、ぜひ今回の手法にもQCストーリーという語を使わせていただきたいと思いました。

QCストーリーにはすでにいくつかあり、特に有名なものとして「問題解決型」と「課題達成型」があります。今回な新たなQCストーリーを何型と呼ぶかについては、迷うまでもなく「理想追求型」にしました。この言い方はコマツとの取組みから生まれたものです。コマツとは2007年から現在までずっとご一緒させていただいておりますが、そのきっかけになったのがまさに冒頭の第83回品質管理シンポジウムに当時の経営トップが会場で私の講演を聞いてくださったことでした。シンポジウムの4か月後に「コマツ ブランドマネジメント(通称「BMプロジェクト」)」がスタートしました。その初年度のメンバーとのディスカッションを重ねてみんなで編み出した言葉が「理想追求型」です。

BMプロジェクトメンバーと共に「顧客から見てコマツが無くてはならない存在になるために、コマツは顧客とどう向き合うべきなのか」について、いろいろな“型”を検討しました。顧客対応として最もダメな型は、価格競争に成りかねない「取引型」。これに対してコマツ自身が独自に編み出したのが「問題解決型」。そして、これからは自分たちプロジェクトメンバーの手で「理想追求型」と呼ぶに相応しい顧客対応プロセスを確立したいということになりました。顧客と理想を共有し、顧客とコマツの双方が力を出し合って理想を実現するプロセスの確立を目指すことになったのです。プロジェクトメンバーとして集まった部課長のみなさんはもともと熱き思いを持った方でしたが、議論を重ねるごとに更に目の輝きをましていく様子はとても印象的でした。彼らと過ごした日々はいまの私の原点になっています。

TQMに対する敬意からきた「QCストーリー」、そして、コマツBMプロジェクト初年度メンバーと一緒に考えて生まれた「理想追求型」という言葉。こうして、「理想追求型QCストーリー」と命名しました。・“what to do"を的確に定めるための方法論の開発を志してから、なんと7年もの月日を要してしまいましたが、こうして理想追求型QCストーリーという名の手続きとして示すできたことを本当に嬉しく思っております。

理想追求型QCストーリーは、非常に多くの方々との関わりによって誕生したものです。

第83回品質管理シンポジウムがきっかけとなって現在もご一緒させていただいているコマツは、私にとってまさに「無くてはならない存在」です。今回の理想追求型QCストーリーの確立に留まらず、本書の続編として出版を計画している「事業創造人材の育成」もコマツとの取組みが無ければ決して実現できませんでした。

方法論として一般化する直接的なきっかけを与えてくださったはマツダです。みなさまとの、あの熱き議論が最近話題になっている新モデルの誕生にほんの少しでもお役に立ったのならこれ以上の喜びはございません。

理想追求型QCストーリーの手続きが最終的に全12ステップとして一般化できたのは、「名工大イノベーション研究会」に参画してくださった企業のみなさまのお力添えによるものです。皆様が一生懸命に取り組んでくださったことに心から感謝しております。

このほか筆者の研究室と協働ワークしてくださった企業は大小合わせて20社以上に及びます。みなさまとの貴重な議論が理想追求型QCストーリーを生んだことは間違いありません。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

第83回品質管理シンポジウムの後、様々な企業との協働ワークを行ってまいりましたが、コマツやマツダをはじめ、理想追求型QCストーリーの確立に欠かすことのできない企業と筆者を出会わせてくれたのはほかならぬ日科技連です。日科技連には、品質管理シンポジウムとクオリティフォーラムという主催イベントを通じて、その時点で私が考えていることを産業界に問う貴重な機会を数えきれないほど与えていただきました。特に、第95回から3回連続で品質管理シンポジウムのグループディスカッションリーダーを務めた経験は、全3回でのべ80名の実務家と議論する場をもたらし、本書の内容を作り込む貴重な機会でした。筆者がリーダーを務めるグループを選んでくださった実務家のメンバーのみなさまに大変感謝しております。

ここまで申し上げてまいりましたとおり、非常に多くの企業および実務家の皆様に出会いの場を与えてくださった日科技連に対する感謝の気持ちを、こうして日科技連出版社から本書出版という形で実を結ぶことを心から嬉しく思っております。かれこれ4,5年前にはすでに出版計画が組まれていたにもかかわらず、手続きの一般化が思うように進まずに2014年秋までずれ込んでしまったことも併せてお詫び申し上げます。多大なご心配をおかけしてしまい誠に申し訳ございませんでした。

そして、最後に研究室の学生たちに感謝の言葉を。
7年間にもわたる険しい道には、いつも隣で学生たちが一緒でした。
彼らがいてくれたから、私は駆け抜けることができたと思っています。
加藤研究室が「目標創造力の向上」を掲げるようになった当時の学生メンバーだった池田祐一君と奈良亜美さんは、指導教官(=私)自身が右往左往している中、一緒になって一生懸命に考えてくれました。加藤研究室における現在の流れは、彼ら二人が作ったと確実にいえます。
本書の内容構成には、現メンバーの強烈な力添えがありました。
大野正博君、安藤彰悟君(現、修士1年)、丹羽正樹君、野末卓君(現、学部4年生)はもはや共同執筆者です。彼らとの強力な連携が本書の出版を確実にしました。
そして、松村喜弘君。松村君が居なければ、理想追求型QCストーリーの中身を作り込むことができなかったと断言できます。松村君が加藤研究室に在籍した3年半の月日は、順調な時よりも、苦難の時のほうがはるかに多かったと思います。企業とのワークセッションがうまくいかず、どう対処すればいいのかわからずに途方に暮れたことは数知れず。でも、隣にはいつも松村君がいて、一緒に考えてくれました。理想追求型QCストーリーは今後もステップ構成が更新され、進化を続けていくものだと思っていますが、その原型を作った最大の共創者が松村喜弘君です。2014年3月に加藤研究室を巣立ち、本書の出版を共にすることができなかったことだけが残念でなりませんが、まもなく出版される本書を、私が直接手渡しして報告したいと思っています。


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