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Channel: ひょんなことから国立大学助教授になった加藤雄一郎の奮闘記
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最新の原稿が雑誌に掲載されました!

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最新の原稿が掲載されました!
品質管理学会の機関誌「品質」 Vol.46 No.1です。

昨年6月に開催された第100回 品質管理シンポジウムのルポルタージュなのですが、実はこれ、ただのルポ原稿ではなく、「これからのTQMは何に着目し、何をすべきか」について明確に主張することを隠れゴールにしています。

「私の私見として」ではないですよ。正確には、私の考えも入っていますが、論理構成は上記シンポジウムの登壇者の方々の個々の主張をもとに、大主張に仕立て上げることを試みました。そのことを「第3章 各論客の主張から導かれる品質管理の未来像」という章にまとめるのに時間がかかってしまい、昨年6月開催イベントのルポが7か月も経過した後になってしまいました。申し訳ありません。

以下に、ポイント4点を転載します。下記の文章は、上記シンポジウムの登壇者の実際のご主張をもとにしています。登壇者は、トヨタの豊田章一郎氏や、コマツの坂根正弘氏などそうそうたる顔ぶれです。どなたが何をおっしゃっていたのかなど、ご関心のある方にはぜひ、図書館等で原稿をご覧いただければと思っております。


 80年代,最大の競争優位要因は“品質”であり,品質立国日本は経済的成功を収めた.裏の品質力は現在も健在であるが,今日では工場における品質管理の重要性が事業全体の1/3程度に低下しており,流通やアフターサービスなど工場出荷後の品質問題が顕著になっている.また,社会の成熟化や新興国企業の台頭によって競争要因は変化しており,「高機能・高品質製品であれば売れる」というかつてのビジネスモデルは通用しない時代に突入した.

 事業とは「持続的顧客価値提供」であり,組織は顧客価値を創造できるシステムを構築・維持する必要がある.その際,競争優位の源となる能力を確立し,その組織能力をQMSとして実装することが欠かせない.品質マネジメントとは「顧客価値提供マネジメント」であり,「どのような顧客に,どのような顧客価値を,どのような能力・特徴を武器に提供するか」という事業シナリオのもとで,これを具現化する顧客価値提供の仕組みをQMSとしてシステム化することが肝要なのだ.現状の品質管理は,品質を品質保証部や製造現場だけの問題にする傾向があるが,現場は生産現場だけではない.TQMは経営のツールであり,その本質はPDCAにある.経営層を含む全ての部門が関与した全員参加のPDCAのデミング・サイクルを回すことが重要であり,「全組織を効果的・効率的に運営し,組織目的の達成に貢献する体系的活動」と定義される品質経営は,TQMを組織プロセスの全体を俯瞰した“事業マネジメント(事業のPDCA)の方法論”として活かしていくことが望ましい.では,上述の顧客価値提供の仕組みづくりを推進するに先立ち,出発点になるものは何か?

 2004年にサービス・ドミナント・ロジックと呼ばれる新たな考え方が登場した後,「製品およびサービスは『顧客が実現したいコト』を実現するための道具である」という認識が主流になりつつある.顧客価値提供の仕組みづくりを推進するに先立ち,「製品・サービスを使って顧客がやってみたいコトは何か?」という問いの答えを魅力個性的なコンセプトとして掲げることが重要であり,そのコンセプトに記された『顧客が実現したいコト』を実現する道具としての製品およびサービスを提供するための組織内部の仕組みづくりが求められる.また,20世紀は多くの商材が初回購入であったのに対して,21世紀は継続購買が中心となっている.さらに,様々な業種で市場の成熟化が進んでいることから,特定の単一商品の継続購買だけでなく,「関連購買(一人の顧客がそのブランドの複数の商材を購入すること)」が一層重要になる.

 このような観点から見た場合,前述のコンセプトというのは「特定の1製品(あるいはサービス)が実現するコト」に留まらず,「当該事業が提供する複数の製品とサービスの組合せが実現するコト」であることが望ましい.「事業全体を通じて,顧客のどのようなコトを実現するのか?」という問いの答えを他にはない魅力個性的な事業コンセプトとして掲げ,これを具現化する顧客価値提供の仕組みをQMSとしてシステム実装し,コンセプトを実現する道具としての製品およびサービスを継続的に創造することが極めて重要といえよう.この実践が〔個性的な品質の提供→企業イメージの形成→コトの共創→CS形成→個性的な品質の提供→・・・〕というCS形成の好循環をもたらすのである.

 実装されたQMSは一度作り上げれば完成というものではない.時代の変化の様相を捉え,組織がもつべき能力の特定に常に意識的な「継続的な自己変革」を志向していくことが求められる.それは,全員参加型のPDCAのデミング・サイクルの継続による「Management of QMS(QMSそのもののPDCA,価値提供システムの継続的進化)」ということになろう.この実践に,品質管理の真髄である「見える化」が本領を発揮する.ファクツ・ファインディングで見える化すれば,知恵出しをする人は必ず現れる.品質管理の真髄である「見える化」を特定の工程の見える化に限定せず,ITを活用することによって価値提供システム全域にわたって見える化すれば,QMSに関わる全ての人が自信をもって意思決定できるようになるのだ.このような組織全体による知識創造の継続は,「目的情報は不完全であるゆえに,目的確定と解探索をカップリングした共創的な解探索」を実践することのできるプロデューサー的人材(クラスⅢ人材)の育成を可能にするとともに,変化の様相を捉えた組織の継続的な自己変革をもたらすと考えられる.

 日本企業はこの20年で世界のSCM強化の流れに大きく後れをとってしまい,工場や物流現場は世界最強であるにも関わらず,チェーン全体の見える化に無頓着だったと言わざるを得ない.また,これまでのIT活用は組織オペレーションにおける「効率化」の視点に偏る傾向があった. そのような問題提起に対して「これからの日本はビジネスモデルで先行し,その上で現場力の勝負に持ち込むことを考えるべき」という坂根氏の主張はこれからの品質管理の在り方を考える上で示唆に富んでいると思われる.この視点から各論者の主張を整理すると,品質管理の未来像として次の4点に挙げられる.

(1) 先立つものは,事業コンセプトである.「事業全体を通じて,顧客のどのようなコトを実現するのか?」という問いの答えを他にはない魅力個性的な事業コンセプトとして策定する.すべての製品・サービスは『顧客が実現したいコト』を実現ための道具であることから,企業の新製品・サービス開発は「コンセプトに表現されたコトを実現するための道具の提供」という観点から継続して行われる.それにより,「CS形成の好循環」という新たな日本モデルが確立される.これまでの「過去品質」,「現在品質」に,新たなに「将来品質(時間経過に対して喚起する期待)」を加えた自社製品の継続的受容という観点が極めて重要.

(2) 上記のコンセプトを,「組織のどのような能力・特徴を武器に提供するか」という事業シナリオに落とし込み,この事業シナリオを具現化する仕組みをQMSとして実装する.ここでいうQMSは生産や物流のプロセスに限ったものではなく,マーケティングや開発とも一体となる.価値の創造と提供にかかるチェーン全体を指す.

(3) 上記のチェーン全体をITで見える化し,同チェーンに関わるすべての主体が自立的に知恵出しできる知識創造の仕組みとして活かす.全員参加型のPDCAのデミング・サイクルの継続的な実践はイノベーションを誘発し,ビジネスモデルの持続的な自己変革をもたらす.その過程は「Management of QMS(価値提供チェーン全体のPDCA)」ともいえる.今後の新たなQCサークル活動として,「チェーン全体を俯瞰した上での自工程の在り方」や「チェーン全体を一層強化するための新工程提案」など,価値提供チェーンの全体をいかに効果・効率的に進化させていくかという視点からの全ての部門が参画したサークル活動が現れる可能性が示唆される.このような活動の継続によって,プロデューサー的人材(クラスⅢ人材)の育成可能性が拓かれると思われる.

(4) また,今日はオープン環境の国際分業が加速しており,上述の広義のQMSは1社完結されるとは限らない.個々の企業が拠って立つ強い独自技術をもとに,「製品設計」,「製法設計」,「材料設計」というモノづくり3要素の企業間連携と融合が進むことが予想される.「垂直一体型」,「オープンイノベーション」,「IoT活用」をキーワードとする連携支援の方法論としての新たなTQMの役割が期待される.


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