来月15日の出版に向けて準備がいよいよ追い込みに入りました。日本品質管理学会 機関誌「品質」にて、特集「価値共創時代の新たなブランドマネジメント」が組まれます。
前回のブランドマネジメント特集は2007年。ほぼ10年ぶりの特集です。今回は、パナソニック→コマツ→マツダ→カゴメとリレーしていく骨太の内容になっています。私も「価値共創時代のブランドマネジメントとTQM」と題した総論を寄稿します。もしよろしければ図書館などで是非ご覧ください。特集本編に先立ち、企画担当者が特集の冒頭で記す「特集にあたって」の文章が本日確定しました。ドキドキします。
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90年代初頭にブランド論が注目されるようになってから四半世紀が経った。かつては「識別機能」、「品質保証機能」、「意味づけ機能」という3つがブランドの主たる機能と考えられてきたが、価値共創の時代を迎えたことを受けた新たな4番目の機能として「期待醸成機能」が注目されている。期待喚起の対象は、顧客だけではない。組織を構成する各部門の従業員、そして、サプライヤや株主などステークホルダーも期待喚起の対象である。ブランドが目指す姿を核に、すべてのステークホルダーの間で「共感と信頼の醸成」を生み出す経営である。
本特集における事例構成は、ブランドの「対外的な効果」と「対内的な効果」という2つの視点に大別し、それぞれの視点の最も相応しい企業に寄稿いただいた。前者・対外的な効果のキーワードは、「カテゴリ・ブランド」である。一般的にブランディングの対象は「商品ブランディング(プロダクト・レベル)」あるいは「企業ブランディング(コーポレート・レベル)」に大別される。そして現状は、各社が前者・個々の商品単位のブランディングでしのぎを削っている場合が圧倒的に多い。そのような中、個々の商品を束ねたカテゴリ・レベルのブランディングが注目されている。このブランディングは「ロイヤルティの高いファンをどのレイヤを貯めるべきか」という命題に対する最有力な答えであり、複数の事業を展開する大企業にとって「商品レベルの各論に陥ることを回避するとともに、企業レベルの抽象論に陥ることも回避する」という最も効率が優れたブランディングといえる。事例1では、カテゴリ・ブランドの確立に注力して持続的な脱コモディティ化を実現したパナソニック社に着目し、「パナソニック・ビューティ」と銘打って同社が確立した美容家電カテゴリをご紹介いただく。また、カテゴリ・ブランディングの確立は、B2Cだけでなく、B2Bにおいても今後ますます重要になっていくことが予想される。特に生産財の場合は、顧客企業がよりよい成果を得られるように、中核となる生産財のみならず、ICTなど駆使したサービスを手掛けることによって「ソリューションを提供する」という発想が求められる。モノとモノがインターネットを介して繋がるIoTは、製品ハードおよびサービスを個々に独立して顧客に提供していた時代から、それらの製品・サービスをパッケージとして提供していく時代の到来を予見させる。事例2では、産業財分野でカテゴリ・ブランドの確立に取組むコマツ社に着目し、「スマート・コンストラクション」と呼ぶ同社の新事業をご紹介いただく。
後者の「対内的効果」では、組織内部に対するブランドの効果に焦点を当てる。魅力的なブランドを創造するためには、それに先駆けて全ての従業員が、ブランドが目指す姿を共有し、その姿を実現するための組織的な取組みを実践することの重要性が説かれている。そのような組織的取組は「インターナル・ブランディング」と呼ばれている。インターナル・ブランディングは、ブランドに関わるステークホルダーの間において期待の好循環を生み出す「ブランド経営」を実践する上で不可欠な取組といえる。事例3では、インターナル・ブランディングの組織的取組によって魅力品質の継続的創造を達成したマツダ社を取り上げ、魅力的な商品を創造する上でインターナル・ブランディングに取組むことの重要性と、インターナル・ブランディングが組織内部にもたらす効果について寄稿いただく。また、事例4として、ブランド経営に個人投資家に変貌したロイヤル顧客の参加を促すカゴメ社には、サプライヤや顧客など多様なステークホルダーと理念を共有したバリューチェーンを構築することの意義と重要性について寄稿いただく。
以上、事例を通じてブランドの「対外的効果」と「対内的効果」を概観した後には、総論としてブランドマネジメントとTQMの関係について考察する。そして、特集最後には、本特集趣旨に合致するセミナーを提供する日本科学技術連盟からカテゴリ・ブランディングを進める際の思考手続きを紹介いただくことにした。本特集の立場から見て、ブランドマネジメントとTQMにはもはや本質的な違いはない。TQMにおいて品質は階層構造を成しており、モノ・サービスの品質は、モノ・サービスを生み出す「組織内部のプロセス・システムの質」の良さによってもたらされる。さらに深層には、マネジメントの質、事業戦略の質、経営方針の質があり、根底には、創業精神・体質・風土・文化をつかさどる「企業のDNAの質」がある。そして、これらのすべての質を包含するものが「ブランドの品質」であり、時間をかけた継続的改善の総和として醸成される。内部適応に踏み込もうとするブランドマネジメントは、TQMと同化しようとしており、両者の間に本質的な違いはない。カテゴリ・ブランドの持続的な成長を見据えた据えた品質保証システムの確立こそ、ブランドマネジメントが到達すべきゴールであると考えられる。TQMと融合したブランドマネジメントの目指す姿は「全員一丸となった強い事業の構築」である。
オペレーション効率を重視して組織を細分化した大規模企業は、いま、縦割り組織の問題に直面し、企業を取り巻く外部環境の変化に適応するための組織的な知識を思うように創造できずにいる可能性がある。TQMの三大基本思想の一つ、全員参加を活かし、縦割りになった組織を今一度結び付けるべく、部門横断的なコミュニケーションによって、企業が保有するすべての経営資源を活かした競争力を編み出すことが求められていると言えよう。本特集が事業の持続的競争優位の確立に向けた全員参加型経営の在り方を活発な議論展開に拍車をかけることを願い、特集にあたっての挨拶とさせていただく。
前回のブランドマネジメント特集は2007年。ほぼ10年ぶりの特集です。今回は、パナソニック→コマツ→マツダ→カゴメとリレーしていく骨太の内容になっています。私も「価値共創時代のブランドマネジメントとTQM」と題した総論を寄稿します。もしよろしければ図書館などで是非ご覧ください。特集本編に先立ち、企画担当者が特集の冒頭で記す「特集にあたって」の文章が本日確定しました。ドキドキします。
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90年代初頭にブランド論が注目されるようになってから四半世紀が経った。かつては「識別機能」、「品質保証機能」、「意味づけ機能」という3つがブランドの主たる機能と考えられてきたが、価値共創の時代を迎えたことを受けた新たな4番目の機能として「期待醸成機能」が注目されている。期待喚起の対象は、顧客だけではない。組織を構成する各部門の従業員、そして、サプライヤや株主などステークホルダーも期待喚起の対象である。ブランドが目指す姿を核に、すべてのステークホルダーの間で「共感と信頼の醸成」を生み出す経営である。
本特集における事例構成は、ブランドの「対外的な効果」と「対内的な効果」という2つの視点に大別し、それぞれの視点の最も相応しい企業に寄稿いただいた。前者・対外的な効果のキーワードは、「カテゴリ・ブランド」である。一般的にブランディングの対象は「商品ブランディング(プロダクト・レベル)」あるいは「企業ブランディング(コーポレート・レベル)」に大別される。そして現状は、各社が前者・個々の商品単位のブランディングでしのぎを削っている場合が圧倒的に多い。そのような中、個々の商品を束ねたカテゴリ・レベルのブランディングが注目されている。このブランディングは「ロイヤルティの高いファンをどのレイヤを貯めるべきか」という命題に対する最有力な答えであり、複数の事業を展開する大企業にとって「商品レベルの各論に陥ることを回避するとともに、企業レベルの抽象論に陥ることも回避する」という最も効率が優れたブランディングといえる。事例1では、カテゴリ・ブランドの確立に注力して持続的な脱コモディティ化を実現したパナソニック社に着目し、「パナソニック・ビューティ」と銘打って同社が確立した美容家電カテゴリをご紹介いただく。また、カテゴリ・ブランディングの確立は、B2Cだけでなく、B2Bにおいても今後ますます重要になっていくことが予想される。特に生産財の場合は、顧客企業がよりよい成果を得られるように、中核となる生産財のみならず、ICTなど駆使したサービスを手掛けることによって「ソリューションを提供する」という発想が求められる。モノとモノがインターネットを介して繋がるIoTは、製品ハードおよびサービスを個々に独立して顧客に提供していた時代から、それらの製品・サービスをパッケージとして提供していく時代の到来を予見させる。事例2では、産業財分野でカテゴリ・ブランドの確立に取組むコマツ社に着目し、「スマート・コンストラクション」と呼ぶ同社の新事業をご紹介いただく。
後者の「対内的効果」では、組織内部に対するブランドの効果に焦点を当てる。魅力的なブランドを創造するためには、それに先駆けて全ての従業員が、ブランドが目指す姿を共有し、その姿を実現するための組織的な取組みを実践することの重要性が説かれている。そのような組織的取組は「インターナル・ブランディング」と呼ばれている。インターナル・ブランディングは、ブランドに関わるステークホルダーの間において期待の好循環を生み出す「ブランド経営」を実践する上で不可欠な取組といえる。事例3では、インターナル・ブランディングの組織的取組によって魅力品質の継続的創造を達成したマツダ社を取り上げ、魅力的な商品を創造する上でインターナル・ブランディングに取組むことの重要性と、インターナル・ブランディングが組織内部にもたらす効果について寄稿いただく。また、事例4として、ブランド経営に個人投資家に変貌したロイヤル顧客の参加を促すカゴメ社には、サプライヤや顧客など多様なステークホルダーと理念を共有したバリューチェーンを構築することの意義と重要性について寄稿いただく。
以上、事例を通じてブランドの「対外的効果」と「対内的効果」を概観した後には、総論としてブランドマネジメントとTQMの関係について考察する。そして、特集最後には、本特集趣旨に合致するセミナーを提供する日本科学技術連盟からカテゴリ・ブランディングを進める際の思考手続きを紹介いただくことにした。本特集の立場から見て、ブランドマネジメントとTQMにはもはや本質的な違いはない。TQMにおいて品質は階層構造を成しており、モノ・サービスの品質は、モノ・サービスを生み出す「組織内部のプロセス・システムの質」の良さによってもたらされる。さらに深層には、マネジメントの質、事業戦略の質、経営方針の質があり、根底には、創業精神・体質・風土・文化をつかさどる「企業のDNAの質」がある。そして、これらのすべての質を包含するものが「ブランドの品質」であり、時間をかけた継続的改善の総和として醸成される。内部適応に踏み込もうとするブランドマネジメントは、TQMと同化しようとしており、両者の間に本質的な違いはない。カテゴリ・ブランドの持続的な成長を見据えた据えた品質保証システムの確立こそ、ブランドマネジメントが到達すべきゴールであると考えられる。TQMと融合したブランドマネジメントの目指す姿は「全員一丸となった強い事業の構築」である。
オペレーション効率を重視して組織を細分化した大規模企業は、いま、縦割り組織の問題に直面し、企業を取り巻く外部環境の変化に適応するための組織的な知識を思うように創造できずにいる可能性がある。TQMの三大基本思想の一つ、全員参加を活かし、縦割りになった組織を今一度結び付けるべく、部門横断的なコミュニケーションによって、企業が保有するすべての経営資源を活かした競争力を編み出すことが求められていると言えよう。本特集が事業の持続的競争優位の確立に向けた全員参加型経営の在り方を活発な議論展開に拍車をかけることを願い、特集にあたっての挨拶とさせていただく。