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Channel: ひょんなことから国立大学助教授になった加藤雄一郎の奮闘記
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第12章の入り方

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いよいよ最終章になりました。
ここで、既存のQCストーリーとの関係を明らかにしておきたいと思います。
特に有名なものに、問題解決型QCストーリーと課題達成型QCストーリーがあります。
目標と現状のギャップを扱っているという点で両者は共通していますが、
表12.1に示す特徴の違いがあります。

表12.1 問題解決型QCストーリーと課題達成型QCストーリー

上表のとおり、
問題解決型と課題達成型は
設定された目標の特質によって、どちらを用いるのかが決まります。
目標設定後の物事の進行は問題解決と課題達成があれば十分だと考えています。
理想追求型QCストーリーは、目標設定後の新たな進め方を示したものではありません。

筆者の最大の問題意識は
「目標設定後のプロセス」ではなく、「目標設定に至るまでのプロセス」です。
現状の進め方は、〔テーマを洗い出す ⇒ テーマを絞り込む ⇒ 目標を設定する〕という流れを汲みますが
実務家からは次のような声が聞かれます。

・ 
・ 
・ 

これらの中で筆者から見て特に気になることは、
自らが所属する部門に関することや、上層から示された方針など、「本人が見えている世界の中でテーマが検討される傾向があるのではないか」という点です。

目標設定後の進め方については既存のQCストーリーはその力をいかんなく発揮していると思うのですが、
本書の第4章で述べた「部門横断的な知識の集約と生成」という観点からみると、
現行のQCストーリーは、テーマの取り扱いについては発展の余地があると言わざるを得ないと考えています。

問題解決型あるいは課題達成型のいずれにしても、一連の取組みによる効果の大きさは
初動の「テーマの洗い出し」にかかっているとっても過言ではないと筆者は考えています。

理想追求型QCストーリーが焦点を当てたのは、
まさにその「テーマの洗い出し」です。

「脱コモディティ化」という大きな旗を掲げ、これを実現する新たな価値次元を創造すべく、的確にテーマを洗い出せるようになってほしい。
そういう願いで考案したのが理想追求型QCストーリーです。

イノベーションを起こすには、
〇〇型の思考と××型の思考の両方が必要と言われています。
問題解決型と課題達成型が担うのは、後者の××思考であり、
前者の○○思考を担うべく考案したのが理想追求型QCストーリーなのです。
理想追求型QCストーリーは、「テーマを的確に定める」までの発散的思考を支える方法論といえます。

このように、
理想追求型QCストーリーは、既存のQCストーリーに取って代わる存在ではなく、それら既存のQCストーリーと相互補完の関係にあります。
本章のここまでの文脈に即して理想追求型QCストーリーの特徴を言い換えると、
理想追求型QCストーリーは発散的思考に基づいて、新たな価値次元を創造しうるテーマを編み出すことに最大の焦点を当てています。
既存のQCストーリーから見た理想追求型QCストーリーは「テーマ導出手法」といえるでしょう。

テーマ導出後のの確実な推進については、問題解決型および課題達成型という優れた手法があることから、
理想追求型QCストーリーでは、テーマのアイディア導出後のプロセスには踏み込んでおりません。
理想追求型QCストーリーを用いた後のプロセスは、
テーマの中身が・・・の場合は問題解決型が後ろに続き、
テーマの中身が・・・・の場合は、課題達成型にバトンタッチすることになります(図12.1)。

図12.1 既存QCストーリーとの関係


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<第2段落>

また、本書は「新製品・サービスの創造」に強調点を置いてまいりましたので
読者の多くは、理想追求型QCストーリーを実際に用いるのにふさわしい部門は、開発や企画、マーケティング、営業部門をいう印象を抱かれたかもしれません。
しかし、理想追求型QCストーリーを通じて導出される新規方策アイディアは、新製品・サービスのアイディアに留まるものではありません。
本書では紙面の都合でご紹介しませんでしたが、筆者がこれまでに企業とご一緒に取組んできた中で以下のようなテーマも議論の対象になっています。

<本書で取り上げたテーマの対象>
・ 新たな価値次元
・ 新たな要求項目
・ 新たな要求品質
・ 新たな新製品・サービスの原案

<本書では取り上げていないもののこれまでの理想追求型QCストーリーを用いたワークセッションで議論されたテーマの対象>
・ 新たに蓄積すべき技術的なシーズ
・ 新たに蓄積すべき組織オペレーションの枠組み
・ 既存の経営資源の位置づけの刷新

このように、
理想追求型QCストーリーを用いて検討するテーマの対象は
企業のあらゆる部門をカバーするものです。
前出の表現に言葉を足して改めると、
『「脱コモディティ化」という大きな旗を掲げ、
これを実現する新たな価値次元の創造と、その効率的な組織オペレーションを実現すべく、
すべての部門の、すべての構成員が的確にテーマを洗い出せるようになってほしい』
という願いを理想追求型QCストーリーに筆者は託しています。

本章ではあくまで「脱コモディティ化を担う、魅力的な新製品・サービスの創造」という点を強調しましたが
すでに筆者の研究室ではこの視点をさらに広げ、脱コモディティ化を狙う「事業全体の持続的な高付加価値化」を目指した魅力的な新製品・サービスの創造と組織オペレーションの構築」
の実現するための体系づくりに着手しています。

理想追求型QCストーリーはその体系の重要な位置を担うことに変わりはありませんが
今後も引き続き追加すべき方法論の開発を推し進め、
企業のみなさまのお役に立てますよう尽力していく所存です。
理想追求型QCストーリーそのものにつきましても更にケースを蓄積して、より多くの企業のみなさまに使い勝手のよいものになりますよう改善を続けてまいります。

脱コモディティ化を狙う「事業全体の持続的な高付加価値化」を目指した魅力的な新製品・サービスの創造と組織オペレーションの構築」の体系につきましては
すでに本書の続編が出版されることが日科技連出版社で決定されておりますので
少しでも早いタイミングで発刊されますよう努力してまいります。

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<第3段落>

理想追求型QCストーリーは、当初の想定とは異なる、思わぬ効果をもたらしたことを第11章で申し上げました。
その効果とは、従業員個人の意識レベルと思考レベルの質的変化です。
「参加者メンバーの仕事に対するモチベーションの向上」や「思考範囲の広がり」といった効果があることが分かってきました。
第11章でも述べたとおり、人材育成を目的とした企業からの依頼に理想追求型QCストーリーを用いるケースは確実に増えてきています。

しかし、その一方で、筆者がこれまでに実施してきたワークセッション参加者からは次のような声も寄せられています。
・ 現場に戻ると、再び目の前の業務に追われてしまい、学んだことを活かせない

これらの声は、
個人の変革に留まっていても理想追求型QCストーリーの効果は限定的であり、
個人を超えた組織全体レベルで、「持続的な事業の高付加価値化を目指す、思考の質的な変化」を実践することの重要性を示していると考えることができます。
これは、個人レベルの人材育成に留まらず、組織全体の風土改革に切り込む必要性を示唆しているといえます。

「組織は戦略に従う」という見解のとおり、
組織の一部の人が新たに能力を身に付けたとしても、その能力が組織全体の方針からみて必要なものでない場合、力を発揮する機会に恵まれません。
筆者としては、個人が習得した目標創造力がいかんなく発揮されるための組織レベルの風土づくりにも取組むことの必要性を強く感じています。

第1章で述べたとおり、
我が国製造業はこれまでキャッチアップ型経営で成功を収めてきました。
キャッチアップ型の経営では、成功している企業の真似をすることを重視しているため、成功する確証がない目標を創造する力は軽視されがちです。

また、日本人の特質として
不確実性回避の傾向性が指摘されています。
このことは、過去に例のない斬新なテーマほど不確実性を伴うことから、
組織的に採用されない恐れが高いことを示しています。

著者が以前参加した品質管理シンポジウムにおいて、
「なぜ魅力的な新製品・サービスを生み出せないのか」を議論した際に、
「ウチの会社でもこれまで魅力的な新製品・サービスと呼ばれるアイディアは考えていたが、成功する証拠を示すことが難しく実行させてもらえなかった」
といった意見をよく耳にしました。

魅力的な新製品・サービスを実現されるためには、
これまでのキャッチアップ型経営から、自ら新たな目標を設定して実現させていくフロントランナー型経営に変えていく必要があります。(小宮山)。
それは、不確実性に対する挑戦ともいえます。

不確実性をゼロにすることは現実的に不可能です。
しかし、不確実性に向き合う力を組織レベルで育むことはできるはずです。

脱コモディティ化を狙う「持続的な事業全体の高付加価値化」を目指した魅力的な新製品・サービスの創造と組織オペレーションの構築」
組織が直面する不確実性にどう対応するかという視点を加味して、体系づくりを進めていきたいと考えています。

人材の育成と組織の育成。
この両立が、持続的な事業全体の高付加価値化をもたらすと考えています。
これは、理想追求型QCストーリーを用いた結果を活かすプロセスにかかっていると思われることから
今後も引き続き、必要な方法論を継続的に編み出して、産業界のみなさまにご提案できますようがんばってまいりたいと考えております。

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