【3】 MBB(Management by Belief: 思いのマネジメント) とは
MBBは、組織と個人の目標を設定するといった点では共通であるが、MBBでは、上位者は目標をブレークダウンして個人に割り付けるのではなく、思いを伝え、部下にそれを具体的な目標案、あるいは方策案として提案させる。管理者と個人の面談の際、「価値観」について対話し、個人のやりたいことを実現する「場」をつくり、個の思いを集約し、組織の知として共有していくいったボトムアップベクトルが重視される。
社会性原理においては、これを上意下達で伝えることは望ましくない。理念というものは、会社の歴史そのものであり不文律だからです。この不文律を感覚として共有していくことが、MBBと言えます。因みに、この不文律を明確に規定してしまうと、そこで思考停止が起こるので、指示待ち社員が出来上がります。
トップダウンの目標のブレークダウン(連鎖)ではなく、トップとミドル、ミドルとボトムがそれぞれ一体となって思いを共創し、そこから目標値を導き出す。会社の目標や組織の背景にある経営陣や上司の思いと、自分自身の仕事やキャリアに対する思いをぶつけ合う『創造的対話』によって会社にとっても意味のある業務上の目標を見出し、それを設定して、実行していくこと。
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【4】 MBBの人間観
問題意識は「なんで仕事をするんだろう?」という、聞く人からしたら子どもみたいな疑問。仕事の楽しさとは何だろうか。自分はいったい何をやりたいのか
『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』では、「学びたい!創造したい!世界をよくしたい!」という思いをモチベーション3.0と定義していたが、まさにそのような「思い」に基づいて仕事をし、マネジメントをしていくのがMBBだと言える。「仕事は大変なものだ」「若いうちは苦労をしろ」という意見もわからないわけではない。ただ、本当にそうだろうか?と立ち止まって考え(それは決して、そういう意見を全否定することにつながるのではない)、時間をかけて自分の「思い」を確認することは意義のあることではないだろうか。
ビジョンを抱き、仕事に対して自分なりの意味づけをし、信念と価値観を持って、仕事を通じて実現したい夢に向かっている個人。「自分はいったい何を目指したいのか」というイメージを抱いて仕事に向き合っている個人。こうした「思いを持つ」個人を想定するマネジメントの考え方がMBBである。(p.47)
マネジメントの主眼は個々人が思いを持ち、自主的、自発的に動けるような環境整備を行うことに置かれるべきではないだろうか。個々人が考える喜び、夢を実現する喜びを実感できる環境を作り上げることだ。夢の実現は個人を成長させる。なぜならば夢は、ビジョンはわれわれを変える力を持っているからだ。目標の連鎖というよりも「思いの連鎖」あるいは「ビジョンの連鎖」を築く。何の思いもない単なる数値目標が横行する昨今の組織だが、それでは内因的モチベーションをもって、自分の最高の仕事をしたいという意欲は生まれないからだ。
モチベーション3.0のポイントは、「自律性」「熟達」「目的」の3つだ。重要なのは、人々を縛るよりも解放すること。時間や場所ではなく、「なぜ働くのか」「なんのために生きるのか」といった目的を共有することにある。MBB(Management by Belief「思いのマネジメント」)を推進することが人事の主要な役割なのである。
仕事で自分を表現できるようになると、仕事はより楽しくなり、強い責任感が生まれる
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【5】 個人の思いを、組織の思いへ
ただし、個人が「思い」を持つだけでは十分ではなく、自分が勝手に、独りよがりの思いを持っていても、それは知識経営にはつながらない。他者と交流する中で知を交差させ、ぶつけ合って、組織的に知識を正当化して、より高質な知識を生み出していくことが重要である。そのためには、最初は自分一人の思いに出発点があるとしても、それを他者と共有し、切磋琢磨し、組織的な思いとして磨き上げるプロセスが重要だ。(p.52)
人間は本来、主体性を持った独立した個である。独立した個が一人では達成できないことを、お互いに協力しあって成し遂げるところに組織の目的、意義がある。
「共通善(common good)」という言葉はとても印象に残っている。個人の「思い」とはいえ、それは独善的なものであってはならず、より質の高い、普遍的な価値、すわなち「共通善」に向かう必要がある。
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【6】 MBBとMBOの関係
MBOとMBBは排他的なものではなく、車の両輪として組み合わせて使うものである。トップダウンで効率を追求する欧米型の経営手法と、現場と経営の相互コミュニケーション(ベタな飲み会含む)を大切にする日本型の経営手法の融合が、MBBの目指すモデルである。それには経営者も社員も全員が、"しみじみ"と「これしかない」と思えるまで話し合う場づくりが必要になる。たとえばケースのひとつ星野リゾートの社長の言葉からは強い思いが伝わってくる。「温泉に浸かれて、本物の和食が味わえ、畳の上でくつろげる日本の温泉旅館は世界一のホスピタリティを発揮する力を秘めています。フランスのまねごとをしているアメリカのホテリエよりもよほどポテンシャルは高い。そういう誇りが社員の心の底にはあるんです。だから私が『うちもリッツ・カールトンになろう』なんていっても社員は燃えません。しみじみしません。だから、むしろ『ペニンシュラを日本から追い出すんだ』といったほうが、意気が上がるのです」。やりがいと楽しさのある創造的な組織の作り方。こうした思いを個人と組織がどうやったら共有できるのか。しみじみ感をつくりだす実践とは何か。そのフレームワークを示すのがMBBである。
成果主義によってもたらされた現在の閉塞感を打破し、個々人が目を輝かせて働くためには、MBOとMBBのバランスをとっていくことが重要なようだ。このバランスをとっていく鍵は、やはり組織内コミュニケーションに尽きる。傾聴をもとにした対話の多い組織を育んでいかねばならない。
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【7】 MBBまとめ
・日本企業には自身の内側からのほとばしる思いを込めて創造的に仕事に打ち込むための仕組み-『思いのマネジメント』Management by Belief (MBB)-が必要だ。
・動機づけによって社員の創造性を引き出そうとするのは間違いだ。人がもともと備えている創造性を解き放つような支援が必要なのだ。
・経営の原点は、『自分は何をやりたいのか』『今何をすべきなのか』といった思い、つまり主観だ。こうした思いの集積がイノベーションを生み出すのだ。
・より質の良い「思い」でなければ、よりよい価値を生み出せない。そのためには個人の思いを組織的な思いへと磨き上げる必要がある。
・『なぜその目標を目指すのか』といった根源的な問いが重要だ。企業の各単位、個人は上位目標を自分の思いと照らし合わせて自分なりの解釈を加え、自分の目標に置き換えなければならない。
・大きな思いを持って目標設定を行い、実践することが大事だ。その場合、組織の枠を意識しないことが必要だ。
・最も大切なのはトップの「思い」であり、その表明としてのビジョンである。
ビジネスパーソンの個々人が「思い」を持って働くことによって、仕事を楽しみ、自分自身の成長を実感して、仕事を自己実現につなげることができる。社員が「思い」を持って楽しく、生き生きと働くことができれば、企業という組織も元気を取り戻し、知識創造という価値を生み出せるようになる。
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本投稿は、「management by belief」をgoogle検索してヒットしたページから引用した情報をもとに構成したものです。出典については、後ほど以下に追記します。