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コンピテンシーの訳語は「能力」。
我が国でこれを「能力」と日本語表記せず、カタカナで「コンピテンシー」と表記する理由は、コンピテンシー評価で能力を見る観点が、従来の能力観とは異なるからである。コンピテンシー的な能力の観点とは、「成果につながるかどうか」という観点で能力を見ることである。
コンピテンシーのイメージは、
外周を囲む「知識・経験」、「成果イメージ」、「思考力」、「動機」が相互に結びついて、中心の「行動」に作用する。これら外周に位置付けられた4つは、従来型の能力観で語られる「能力」の要素である。これら4つは能力の構成要素であることに違いない。しかし、要素だけでは成果には結びつかない。4要素が成果に結びつくためには、それらが行動に換言されなければならないのである。
たとえば、知識・経験はあくまで道具であり、これが行動というレベルで使われないままであるなら、いくら質や量があってもその価値はゼロである。次に、成果イメージがあることは、成果を上げる上で有利ではある。しかしイメージがあっても行動が伴わなければ成果は生まれない。思考力についても、露rんり的に周囲を説得できる、議論に強いなど、その一歩先にある行動や実行に繋がってはじめて意味を持つ。内から湧き出るモチベーションの高さや、周囲への動機のアピールのうまさも、行動の前段階の条件に過ぎず、それ自体では何ら成果を生み出さない。
したがって、コンピテンシー的な能力の観点による人物評価とは、その人が、知識・経験、成果イメージ、思考力、同期などを行動に還元して発揮し、成果を生み出すことができる特性を有しているかどうかを評価することに他ならない。
⇒ ん?ちと待てよ。。ということは、最近の企業でよく見かける上記4項目に沿った測定項目の充足程度を測って「コンピテンシー評価」と称しているものは、従来型の能力評価と何が違うことになるんだろうか??
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成果を出したとしても、考えもなく闇雲に行動したということであれば、コンピテンシー的な意味で能力があるとはいえない。成果はあれど、その成果が、幸運や偶然の好条件に大きく依存しており、再現性がないと考えられる場合は、コンピテンシーが発揮されているとはいえない。たとえば、運動部で○○大会に優勝したという話で、それが有力チームの不参加によってもたらされたというケースが該当する。
[再現性のない成果の例]
・たまたま市場のパイが広がった時期だった時に生まれた成果
・たまたま有力者の援助があり生まれた成果
・前任者の仕込みが実ったことで生まれた成果
・天候などの自然条件が味方したために生まれた成果
・強いコネクションを使って生まれた成果
ある行動が成果に繋がった場合にコンピテンシーが発揮されていると言えるのは、その成果を今後、二度、三度と再現することが可能であると予測される場合である。
コンピテンシー的観点で能力を見る際は、「行動」がカギを握ると述べたが、それはPDCAのうち“Do”だけに着目するということではない。
知識・経験、成果イメージ、思考力、動機を行動に還元するプロセスにおいて、コンピテンシーを発揮している人材は、PDCAサイクルを回している。再現性ある成果とは、取組の最初の段階から最終的な成果が現れるまで自分の頭で方法を考え、試行錯誤がありながらも手を打ち続け、行動し続けることによって生み出された成果のことを指す。つまり、PDCAサイクルを回しながら考え、行動し、得られた成果である。
コンピテンシー面接では、被面接者がさいの能力4要素を行動に還元させているかどうかをまず確認した上で、被面接者がPDCAサイクルを回しながら行動し、成果を生み出してきた実績があるかをチェックする。自分の頭で考え、行動して生み出された成果がある人は、「次もまた成果を生み出せるのではないか」「状況が変わっても、応用が利くのではないか」ということを高い確率で予測させる。これが成果の再現性があるということであり、こうした「再現性ある成果を過去に生み出したことがある」ということが、「コンピテンシーが高い」ということに他ならない。
逆に言えば、コンピテンシーの視点とは、再現性ある過去の成果を見ることによって、その人が未来に成果を生み出すであろう可能性を評価することである。これこそが、コンピテンシー概念の人材評価指標としての優位性の本質である。
[コラム]
人材を採用する際に評価すべきは、その人が過去に生み出した成果ではない。「将来において生み出すであろう成果」の価値である。過去の実績は、あくまでその判断をするためのデータにすぎない。労働市場では、その人が「これからわが社に利益もたらすであろう」という見込みに基づき、採用側は求職者を値踏みするのである。
これは株を買う時とよく似ている。株に投資する時に、この会社は過去に高い業績を上げたから買ってみようという人はいない。これから大きく伸びるであろうと予測できる会社の株を買うというのがあたりまえのセオリーである。そうしなければ、投資を回収することができないからである。人材に対する見方でもこうした投資の観点が重要である。
未来のコトを予測するのは非常に困難であり、どれほど優秀な株式アナリストをもってしても、株価に直結する企業の未来の業績を100%完璧に予測することはできない。ただし、その制度をあげるための指標(=尺度)づくりに関しては日進月歩で努力が続けられている。
人材について考えた場合、最新最強の投資指標に相当するのがコンピテンシーであり、自らPDCAサイクルをまわり、再現性のある成果を過去に生み出してきた人材かどうかを確認する手法なのである。