交渉論では、Interest(利害関心)をあらかじめ準備しておくことが重要とされる。Interestとは、その交渉で達成したいことを箇条書きに列挙したもの。
一方、interestと似て非なる概念としてPositionがある。Interestが頭の中にある、ある程度漠然とした目標であるのに対し、Positionはそれを具体化して相手に要求した内容(発言内容)をいう。Positionは、Interestから発生しているので、両者は似通っているが、交渉では両者を区別して考えることが極めて重要と言われている。
【事例】
このケースにおいてA氏にとって最も重要なInterestは、「できるだけ安い値段で買いたい」である。しかし、「来年発売の新製品に備え、良好な関係を保ちたい」、「不良が発生した場合の対応をきちんとしてほしい」など複数のInterestが同時に存在する。
【事例の続き】
A氏とB氏は、それぞれ異なる「1個X円」という価格を設定しており、平行線。この原因は、1個X円というPosition(具体的提案)に双方が固執しているから。突破口は、Positionではなく、双方のInterest(願望)に着目すること。これにより、お互いにとってうまみのある合意しやすいアイディアが生まれる。
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このあと、著者は、膠着した Interest以外の他のInterest(「できるだけ多くの数量を受注したい」、「納期にできるだけ余裕をみてほしい」、「部品在庫は発注側で負担してほしい」など)に目を向けることの必要性を説いている。そして、あるInterestは相手に有利になるようにして、他のInterestを自分が有利になるよう、「Interestの交換」によって話し合いをまとめるテクニックを紹介している。Interestの交換のほかにも、「Interestの共有(共通利害の発見)」というテクニックもあるという。本ケースの場合、「新製品案件は、売り出す当方だけでなく、部品供給側の相手にとっても大型受注に繋がる」が相当する。
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また、自分のInterestが何なのかきちんと把握しておくことも重要。たとえば、話し合いのなかで急に納期の条件が出てきた時に、それに関する譲歩が自分のInterestにどう影響するかすぐに判断できる。さらに、相手のInterestが分れば、その中から自分のinterestに差し障りのない部分を譲歩した提案をすることで話をまとめることができる可能性が高まる。
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Interestは、いわば演繹推論のルールに相当するものであり、何らかの具体的なPositionを導くための価値基準といえそう。著者は、「交渉の際、演繹推論ルールを取捨選択せよ」と指南していると解釈することもできる。テクニックとしてそれはたしかにきっと有効なのでしょう。しかし、なんかそのテクニックは性に合わない。個人的には、ベクトルが異なる複数のInterestを組合せて、「○○を棄損しないように、××する」や、「○○を満たしつつ、××する」といった具合に“合成interest(あるいは統合interest)”というものに着目してみたいと思う。その最大の理由は、あるモノサシ上で際限ない値を目指すことになりかねないInterestでは交渉にならないから。たとえば、「できるだけ安く買いたい」というInterest(願望)がもたらすPosition(具体的提案)は、タダになるまで留まることがないわけです。際限がない。どこかでキャップする必要があります。しかし、「できるだけ安く買いたい」というInterestではキャップのしようがない。あるモノサシ上で、とる値にキャップをする(値がとりうる挙動範囲の上下限値を定める)ためには、際限ないInterestだけで話がまとまるわけはなく、ある種のトレードオフを設定しなければならない。それが、「ベクトルが異なる複数のInterestを組合せた合成interest(統合Interest)」に着目してみたい最大の理由です。
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