Step2 リード・ユーザーの選定
先の企業理念の内容に最も相応しい象徴的な顧客を設定してください。たとえて言うなら、さきの企業理念に記された内容を写真でビジュアル表現した際に、その写真に写っている被写体です。被写体が複数いる場合は、その中でも主人公となる顧客のことです。個人、企業、社会のいずれでもOKです。その際、選定理由を併せて記述してください。
そして、そのリード・ユーザーと共に目指す究極的な理想状態・ゴールを共通価値として定めてください。企業理念に描かれている社会的存在意義をここでは「自分たちの事業がリード・ユーザーとともに目指す最終的な共通価値」として捉えます。企業理念がそのような共通価値になっていない場合は、リード・ユーザーと共に最終的に実現を目指すに相応しい共通価値を定めてください。
注意事項1: しばしば、選定理由欄にリード・ユーザーの特徴を羅列したケースを見受けます。これは示唆が乏しい。「そのリード・ユーザーはどのような理想を描いているのか」、「その理想の実現に向けて、本人は現状においてどのような創意工夫を凝らしているのか」といった現状を記載してください。「リード・ユーザーが目指す理想」と「その実現に向けた創意工夫の実態」の2点を必ず含めて選定理由を書いてください。
注意事項2: へのへのもへじ状態で特徴や特質がわからないリード・ユーザー設定はまったく望ましくありません。以後のステップで思考停止に陥るか、あるいは、メンバー間のイメージ認識の違いが生まれ、議論がかみ合わなくなる恐れがあるからです。本ステップでは、特定の個人、特定の企業、特定の国や地域にしてください。ただし、「シンボリックな有名人」や「イメージキャラクター」、実態の詳細がよく分からない人をリード・ユーザー設定するのはくれぐれも避けてください。
注意事項3: みなさんの会社がどれくらい踏み込んだ企業理念を掲げているかにもよりますが、最も望ましいのは「企業理念に書かれている内容ついて、他の誰よりも最前線でチャレンジしていて、自らも創意工夫してそのことを実現しようとしている個人あるいは集団」です。いわば、共創相手(パートナー)です。事業が掲げるビジョンを共有し、お互いの力を合わせて共創するに相応しい個人・集団を設定できることがベストです。
注意事項4: 企業理念に書かれている内容が過度に抽象的な場合、リード・ユーザーを設定することが困難になります。その場合は、検討メンバーの総意として、「我々が事業を通じて最も喜ばせたい個人あるいは集団は誰か」という問いの答えを記述ください。そして、なぜそのような個人あるいは集団を選んだのかを選定理由として記述してください。あまり望ましくないのですが、どうしても設定できない場合は、既存の重要顧客の中から特定の個人(B2Bの場合は特定の企業1社)を選んでください。いつまでも悩んでいるよりも、いったん次に進んでみたほうが、新しい気づきが得られ、視野が広がります。2回目のPDCAの時にあらためて相応しいリード・ユーザーを選定してみるとよいでしょう。
注意事項5: 選定理由を記述する際、選定した個人(あるいは集団)の属性などの特徴を表現するだけでなく、状況や行動、本人が描く今後の展望など、多面的に捉えて記述することを心がけてみてください。具体的には、「その個人(あるいは集団)は、いまどのような状況に置かれているのか」、「その個人(あるいは集団)は、将来に向けてどのような展望を描いているのか(今後、何をしたいのか)」、「そのような将来展望に向けて、現在はどのような創意工夫を施しているのか」などです。そのようにリード・ユーザー選定理由を踏み込んで記載することによって、リード・ユーザー表現に意味の豊かさが増します。
たとえば、単に「30代女性のアナウンサー」ではなく、「復帰を望んでいる産後育児休暇中の元アナウンサー」といった具合です。また、別の例でいえば、単なる「モノづくりベンチャー企業」ではなく、「参入先の国情に合わせて製品仕様を速やかにカスタマイズする必要性に直面するモノづくりベンチャー企業」といった具合です。このように、そのリード・ユーザーが置かれた状況や、本人の意図を伴う表現を心がけることによって、後続ステップの検討が進めやすくなります。
注意事項6: 当ステップをシートに表現する際は、リード・ユーザーのビジュアルイメージを併せて貼っておくことをお勧めします。たとえば、「Getty images」(http://www.gettyimages.co.jp/)というウェブサイトは大変興味深く、有用です。このウェブサイトで選定理由に記した語をキーワード検索してみて、みなさんのイメージに合うビジュアルを記入シートに用いると、このあと検討でイメージが膨らみ、アイディアが出やすくなります。絵や写真などで具体像を共有することは意外と重要なのです。
注意事項7: 本ステップについて筆者に寄せられる声として最も多いものに、「正しく設定するための基準は何か」、「選定したリード・ユーザーの妥当性を客観的に測る尺度は何か」といったことが挙げられます。ひとまずの選定基準としては上記の注意事項のほかに、「この個人(あるいは集団)を喜ばせることができれば、ほかにもたくさんの個人(あるいは集団)にも水平展開できる」という、ヨコ展開の中核に位置づけられるか否かという観点からもご検討ください。ただしリード・ユーザーの妥当性については、後続ステップを通じて製品・サービスのアイディアが導出されて初めて評価できることであるため、「本当にこのユーザー設定でよいのか」について考えるのはもっと後のステップになってからでもよいと思われます。何度もPDCAを回すことが大切です。